アニメーション映画『美女と野獣(Beauty and the Beast)』は1991年に公開された映画です。
『美女と野獣』は『リトル・マーメイド(The Little Mermaid)』に次ぐディズニーを代表するミュージカル作品で、音楽が印象づける作品の世界観は映画を大ヒット作へと導きました。
物語のプロローグとなる音楽は壮大なオーケストラで表現され、それぞれのシーンで使われる音楽もユニークでユーモラスな音楽からロマンチックな音楽まで生み出され『美女と野獣』の音楽は世界中で愛される音楽となりました。
ヒロイン:ベルと野獣と城の仲間たちやガストンなど個性豊かなキャラクターによる歌も物語に彩りを与え、ディズニーの最高傑作ともいえる作品です。
音楽は『リトル・マーメイド』『アラジン』を担当したアラン・メンケンとハワード・アシュマンのコンビです。
今回はアニメ版映画『美女と野獣』の音楽や映画の制作秘話、楽曲のエピソードなど紹介していきます。
Contents
音楽データ
主な音楽担当 〜アシュマンとメンケンの話〜
- 作曲:アラン・メンケン(Alan Menken)
- 作詞:ハワード・アシュマン(Howard Ashman)
『美女と野獣』の音楽を手がけたのは『リトル・マーメイド』『アラジン』を担当したアラン・メンケンとハワード・アシュマンのコンビです。
制作当時はまだ『リトル・マーメイド』の公開前で、その時点では彼らの手がけた音楽・作品は世間において評価されるものであったかは未知な状況でした。
ディズニー社としても、アラン・メンケンとハワード・アシュマンを起用する予定もなかったそうですが『美女と野獣』の作品の歌を書くことをアラン・メンケンは任された際「ハワード・アシュマンと二人でミュージカルの制作チームである」ことをディズニー社側に告げたことから『リトル・マーメイド』に続くコンビとして作品に携われることとなったそうです。
そして『美女と野獣』の制作を進める中『リトル・マーメイド』が公開され、作品や楽曲において高い評価を得ることができました。アシュマンとメンケンは数々の賞を受賞していきます。
しかしそんな中でアシュマンはメンケンにあることを告げました。それは自分は「HIV陽性」であり、病気であるということでした。
アシュマンは体調不良が悪化し、自宅に近いニューヨークを拠点に制作の作業が進められるようになります。
アシュマンは体調が悪化していく中でも制作を続けましたが『美女と野獣』の完成を見ることなく死去しました。
『美女と野獣』はアシュマンとメンケンが書いた歌が映画の成功に大きく貢献し、音楽の構想とともに映画制作の初期段階から携わって仕上げる工程はミュージカル映画の制作の流れにも大きな影響を与えていきます。
プロデューサーであるドン・ハーンは「アシュマンとメンケンが非常に得意としていたのは、物語のなかから、ある場面と台詞を抜き出し、音楽的な表現に変えるといったことです。特にドラマチックな場面展開やコミカルなシーンで、自然に音楽的に感情や雰囲気を表現します。」と語りました。
代表曲
- 「朝の風景(Belle)」
- 「強いぞ、ガストン(Gaston)」
- 「ひとりぼっちの晩餐会(Be Our Guest)」
- 「愛の芽生え(Something There)」
- 「美女と野獣(Beauty and the Beast)」
- 「夜襲の歌(The Mob Song)」
『美女と野獣』で代表される楽曲は音楽を聴くだけでその楽曲が使用されたシーンが思い浮かんでくるという方も多いかと思います。
印象的で、大胆な演出が多いミュージカル作品でもあったかと思います。
次にそれぞれの楽曲について紹介します。
アニメーション映画『美女と野獣』と音楽
『美女と野獣』は物語の進行の多くを歌が担っています。
スコア上の音楽においても、テーマとなる歌の旋律が使われたり、色々な表現で作品を盛り上げてくれます。
朝の風景
プロローグが終わった後最初に使用される楽曲です。
ベルが中心となり歌い、街で登場する人々がコーラスとして歌ったり、ソロを受け渡しながら歌われるます。楽曲の途中で歌はガストンたちに受け渡され、ベルに対する感情も歌にのせます。最後は街の登場人物みんなで合唱します。
この楽曲は個性豊かに表現され、歌詞の内容も様々で街の人々の会話やベルに対する見方などが含まれており、歌一つでベルや街の人々、ガストンなど登場人物の人物像や関係などが理解できます。
「アシュマンは歌をどこにどのタイミングで配置するべきかを熟知し、歌の力で、台詞だけでは伝えきれない世界観を築くことができることを知っていた」ということを当時のスタッフは語っており、まさにこの楽曲に活かされているようにも思われます。
ミュージカル作品の定番の手法に、「主人公が腰をかけて、自分の夢を歌い上げる」というシーンというものがあります。
この作品ではベルが広場の噴水で夢を歌うシーンが表現されました。
また、この楽曲は田園交響曲のようになっており、交響的な楽曲で古典的なスタイルで表現されています。
オーケストラは62名からなるもので、弦楽器を多用し、物語の進行を促していきます。
「朝の風景」はリプライズ「ベルのひとりごと(Belle (Reprise))」として使われます。
ここではメロディはほぼそのままベルのガストンに対する怒りやベルの希望や思いが歌になって表現されます。よりベルの感情が音楽的にも繊細に表現されているようです。
このようにリプライズで表現されるのは現在のディズニー映画でも王道の手法ですね。
強いぞ、ガストン
ガストンとガストン側につく人々に歌われるこの歌は非常にユーモラスな表現で、愉快な楽曲となっています。
3拍子の音楽に歌詞をのせており、ハワード・アシュマンの力が発揮されている楽曲です。歌詞は作品中で使われたものよりも多く作られていたそうですが、惜しくもカットされた部分が多くあるようです。ガストンに従うル・フウによってガストンの人物像が表現されていたり、ガストンの野蛮さ・悪役っぽさを際立てる楽曲となっています。
実写版ではアニメ版でカットされた楽曲が復活している部分もあるようです。比較してみると良いかもしれませんね。
ひとりぼっちの晩餐会
楽曲のテーマを背景にルミエールの語りかけから始まるこの曲はブロードウェイミュージカルの壮大さを感じます。アラン・メンケンが得意とするような音楽であり、それにハワード・アシュマンの持つ作詞の能力が発揮されることで非常に華やかで盛り上がる演出となりました。
ディズニー・オン・クラシックや東京ディズニーランドのアトラクション 「ミッキーのフィルハーマジック」でも使用され、観客を盛り上げるためにも非常に適した楽曲です。
この楽曲はガストンと城の住民が戦うシーンでもコミカルにアレンジされて使用されます。
「ひとりぼっちの晩餐会」のシーンについてメンケンは「この楽しいシチュエーションをどうストーリーに盛り込めば良いかと1番に考えました。私たちの頭の中では、様々な愉快なイメージが繰り広げられていましたが、アニメーター達は私たちの想像をはるかに超えた素晴らしい映像に仕上げてくれました。」と語っています。
アニメーションでもこのシーンでは一番明るく鮮やかな色を使用し、楽曲が進むにつれて華やかさが増していく仕上がりとなっています。
このシーンはCGアニメーションでも表現され、当時は革新的な技術となり、新鮮な表現がより、シーンの演出を引き立てることとなりました。
愛の芽生え
高音の木管楽器が奏でるイントロで始まるこの楽曲はかわいらしく、ロマンチックな楽曲です。
ベルと野獣が順に歌い、お互いの感情を歌にのせています。そして互いに気持ちが芽生え始めていることを意識始め、楽曲の最後では二人を見守るルミーエル、コグスワース、ポット婦人の思いが歌われます。
また楽曲の中で「朝の風景」も使われ、このシーンでのベルの気持ちが表現されています。
この曲はもともと魔法にかけられた城の住人たちが、人間に戻ることを夢見る姿を描いており「人間に戻りたい」という曲の使用を予定していました。
プロデューサーであったはドン・ハーンはどうしたら物語がうまく進行し、ベルの心情表現を効果的に可能できるか悩みます。その際に、アシュマンとメンケンがその表現にマッチした「愛の芽生え」を急いで書き上げました。
この楽曲が録音された時はアシュマンはニューヨークから電話で曲の仕上がりを確認していたそうです。
美女と野獣
ディズニーの中でも究極ともいえるバラードソング。
この楽曲は和声も旋律もシンプルに作られていますが、感動的な音楽に仕上がっています。
メロディは5つの音を小節の後ろに置き音楽が進行していくことを基本としています。それがとても印象的で美しく感じます。
この曲はアラン・メンケンとハワード・アシュマンがチームとして作品に貢献したことを証明していると感じます。
作品の中ではポット婦人(アンジェラ・ランズベリー(Angela Lansbury))が歌います。
メンケンは「この曲の最大のポイントは、シンプルであること」と語っています。ラブソングでありがちな壮大な表現ではなくあえて、穏やかな雰囲気を出したかったようです。
アンジェラ・ランズベリーが歌うことを意識しながら作曲し、楽曲はまるで語りかけるような歌声が響き、映画の中枢となる印象的なシーンを表現してくれました。
野獣とベルが踊るシーンは当時の最先端の技術を用いて、実写のような滑らかなカメラワークを演出します。
また、背景映像がカラー・アニメーションで立体的にCG制作されたのは世界初であったようです。
コンピューターの技術により、アニメーションはよりドラマチックなものとなり、自由なカメラワークにより、シーンは平面的ではなく立体的なものとして捉えることができます。
夜襲の歌
ガストンが城に襲いかかるときに歌われる楽曲です。
ガストンの力強いバリトン声が引き立てるオペラ調の楽曲です。
メンケンはこの歌詞の意味について語っており、それは「この歌がアシュマンにとっての人生の局面を映し出しているともいえる」ということです。
「理解できないものは、嫌なもので恐ろしい。この怪物は、謎の生き物に違いない」という歌詞は、当時のAIDSに対する世間の感じ方が投影されていたものであり、これをアシュマンは病床で書き上げていました。
作品にまつわるエピソード(制作秘話)
メンケンが語る『美女と野獣』の音楽的背景
アラン・メンケンは『美女と野獣』音楽について、フランスが舞台になっていることから、フランス音楽からインスピレーションを得て楽曲を書き上げたとのことです。また、楽曲にはクラシック音楽やブロードウェイ音楽の要素も加えられています。
楽曲「美女と野獣」はブロードウェイ音楽がインスピレーションとなっており、子守唄のようなシンプルなメロディを想定していました。映画の本編とは別に単独で使用されることも知っていたため、独立した曲としても成り立たせるため、制作には時間がかかったそうです。
そして「美女と野獣」はベルと野獣の物語を語るために存在し、深く情熱的な恋の物語は、これらの楽曲の力の源となり、作品に命を吹き込んでくれたのです。
エンドソングが主題歌のポップスバージョンを使うようになったのは美女と野獣から!?
ほとんどの映画のエンディングでは歌をバックにスタッフロールが流されます。
アニメ版『美女と野獣』でも「美女と野獣」のポップスバージョンでエンディングが流れますがディズニー映画でこの手法をとったのは「美女と野獣」が最初かと思われます。
この手法は、以降のディズニー映画でもほとんど起用されることとなり、主題歌が大きな役割を持つことを意識させます。
エンドクレジットのメッセージ
エンドクレジットにはハワード・アシュマンへの追悼メッセージが書かれています。
「人魚に声を与え、野獣に魂を与えた我々の友人」と始まり、映画に大きく貢献した彼に対するメッセージを見ることができます。